1.項羽と劉邦(司馬遼太郎の歴史小説から)
大陸を統一し、巨大権力を握った秦の始皇帝。しかし彼が没すると、大陸全土で「陳勝・呉広の乱」を皮切りに無数の反乱が起こり、再び乱世となりました。
その中で、一人は項羽、もう一人は劉邦、二人は大陸の覇権をかけて争うことになります。
項羽は楚の名家、項家の出身。大男で腕力があり、戦闘能力に秀でて勇猛並び立つ者がいませんでした。
一方劉邦は片田舎の百姓出。酒と女が大好きなろくでなしで、家族からもごくつぶしと疎んじられていました。
二人は大陸の覇権をかけて争いますが、劉邦は終始劣勢で、何度も何度も負けて窮地に陥ります。しかし、最終的には劉邦が勝って漢帝国の創始者となります。
何故、劉邦は項羽を打ち破り天下を取ったのでしょうか。戦闘能力という点では、劉邦は項羽に到底及びません。しかし、劉邦には、漢の三傑といわれる韓信、張良、蕭何をはじめとする有能な人材が集まりました。劉邦は無学で、口が悪く、教養もなく、酒と女が大好きなだけの男でしたが、何故か人に好かれる不思議な魅力がありました。「あっしがいなければ、劉あにいはただの木偶の坊ですよ」と言わしめるものがありました。
「劉邦は何もできない、だらしない。だから何とかしてあげなければ」劉邦はそう言わせる魅力をもっていました。
これに対し、項羽は能力があります。一人で全軍を引っぱっていく力があります。しかし、親族以外を信用せず他人の言うことに耳を傾けようとしません。「項羽のためには、何とでもしてあげたい」と人に言わせる魅力を持ち合わせていません。結果、有能な人材が集まりません。
2.天下を取ったのは酒と女が大好きな劉邦
私は、司馬遼太郎の「項羽と劉邦」を読む前は、天下を取るのは項羽みたいな人だとずっと思っていました。それなので、天下を取った劉邦のことを知り、驚きました。大変、新鮮でした。
もちろん項羽にも少なからず有能な部下はいたはずですし、また劉邦も有能な人を抜てきし重用したところからすると能力があったと考えられます。
私が驚いたのは、中国という広大な大陸をまとめ上げたのは、戦闘能力のある項羽ではなく、飲んだくれで女好きで戦闘能力はないが、人に好かれ有能な人を集めることのできた劉邦だったということです。
3.現代社会におけるリーダーの資質は
さて、現代社会にではどうでしょうか。
世にいうリーダーは凡そ「項羽」タイプでしょうか。
こと経済界についてみると、企業はトップ次第といえます。トップにもっとも望まれるのは時代の流れを的確に読み、それを決断実行する能力です。トップは「項羽」のもつ力が必要です。
そうには違いないのですが、正しい見通しを立ててもそれを実行に移すのには社員の協力、結集が必要となります。そうなると、リーダーの人格が求められます。この人ならついてゆけるというものがなくてはなりません。ここでは「劉邦」的なところも大事なのかもしれません。何とかしてあげたいと思わせる人に有能な人材は離れずについていくのではないのでしょうか。
4.親子関係、男女関係において、あなたは項羽ですか劉邦ですか
さて、私達の日頃の生活については如何でしょうか。
例えば、子供が大きくなり、親が年老いてきた場合。
親は、精神的にも経済的にも子供に迷惑をかけまいと、自立して生活しています。そして元気溌剌と日常生活を送っていると、子供は安心して、親のことはかまいません。親がしっかりすればするほどかまいません。親に声をかけるのは、何か自分に用事が出きたときぐらいです。この場合は親は「項羽」といえます。
「項羽」の親は、一人でしっかりやっていくので、子供はほったらかしにします。これに対して、親が「劉邦」となり、子供に何かを頼ろうとすると、頼るまでもないがあれやこれやと雑談することが多いと、子供はうっとうしい側面を越えない範囲で対応しようとします。「劉邦」の親は、可愛げのあるかぎりであれば、親子関係が密になります。たまには「劉邦」タイプもよい、ということになりはしないでしょうか。
男女の関係は解りやすい。
男でも女でも、相手が項羽タイプで一人で何でもやるとなると、口をはさみません。これに対して、「劉邦」タイプで、どことなく頼りない仕草をされると、何とかしてあげたくなります。
平生は「項羽」タイプでかまいませんが、時には「劉邦」タイプであって欲しい、ということにならないでしょうか?
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